■ ぱたぱた


ぱたぱた、ぺこぺこ、かたかた、かこかこ。
このところ、僕はずっとノートパソコンのキーボードを叩いていました。叩きまくっていました。叩きまくっていやがってました。うりゃっ、かこかこ、くらえっ、ぱたぱた、これでもかっ、かたかた、こんなのはじめてだろっ、ぺこぺこ、ごめんねキーボード、かこかこ。

部屋のベッドの上から一歩も動かず、ぱたぱた、ぺこぺこ、すいません一歩もというのはウソ、コーヒー淹れに行ったりトイレ行ったり、戻ってきて、かこかこ。

朝が来て昼が来て夜が来て、でもそんなことは僕の時間とは完全に切り離されていて、部屋の時計がもう、ただ、時間の経過だけを表すためのストップウォッチになって、ぱたぱた、たぶんまた朝が来て、かこかこ。

ぱたぱたぱた、あれ僕はそういえば、ぱたぱた、昨日からなにか食べてたっけ、かこかこ、覚えてないな、かこっ(エンターキー)、まあいっか、コーヒーに砂糖たっぷりで飲もう、ぱたぱた、おとといってなにか食べたっけな。

そのうちに、かたかた、ぺこぺこ、ぺたぺた、びたびた、あれ、なんかキモチワリイぞ、びちゃっ(エンターキー)、うわ、だめだ、なんだこれ、これのどこがおもしろいんだ、やばいワカンネ、ぜんぜんわかんなくなっちゃった、そうだ、こんなときは大好きなあの漫画を、小説を読もう、ぱらぱら、ぱら、めくってみても、なんだか、様子がヘンだ、なんかぜんぜんおもしろくない、いつも爆笑したり感動したりできるところが、逆に鼻について仕方ない、なにより絵も文字もそれ自体キモチワルイ、なにこれ、うそ、キモチワリイ、吐き気、唖然、悄然、慄然、目のまえ真っ暗。

もういちど、自分のノートパソコンのモニタに浮かぶ文字を、ウゲ、やっぱりむかつく、吐きそうだ、昨日自分でアホのごとく感動しながら打ち込んでいたのに、キモッ、なにこのストーリー、ふざけんな、コロスぞ、これじゃ進めない、うわあ、やばい俺、このままじゃなにも変われない、呆然、しばらく無為、そのうちウダウダ、でもぼけーっ、ぽかーん、ああ、だけど……、やはり仕方ない、アホのごとき箇所は全て消してみる、ちょっと、でも僕にとってはかなり、八千字ぐらいか、(あとで確認したら二万字だった)、後退しちゃったけど、進むしかないかな、不安、でもまたベッドの上で、とりあえず、やれそうかな、べた、べた、うーん、べちべち、ぺちぺち、ぱたぱた、あれっ、ぱこぱこ、ああ、やっぱ削ってよかったのか、つながった、そして好きな映画のシーンを回想して感動、うん、あれはいいよね、泣けます、ぱたぱた、ぺこぺこ、そして夜、でもって朝。

指はキーをたたき続け、眼はモニタを凝視しつづけ、なんか緑色の残像がまぶたの裏に、あらキレイ、でも無精ヒゲは伸びてキタナイ、喉もたぶん渇いてるかも、ハラも減ってるのかも、ありゃ、なんか声が出ねえ、いつからだ、まあいいや、ぱたぱた、まだ書ける、指は余裕で動く、自分で気がついてないけどブラインドタッチできてるかも、お祝いっぽく、いなり寿司補給、あ、もぐもぐ、ぱたぱた、ここどうしようかな、うーん――そうだ、あ、かこかこ、ぱたっ(自己サスペンド)
……。
…………。
………………。
…………。
……、
あ(数時間後に自動再起動)、おはよう、そうだここは、かこかこ、こうだ、あれ、これって、ぺちぺち、どっかの本のパクりかな、ぺち、なんか絶対読んだことある気がする、やべえ、でも手が止まらない、ぱたぱた、うっそ、このフレーズぜったいどっかにあった、ぽこぽこ、盗作だよこれ、超やばい、でも勝手にこいつらが、ぺたぺた、かたかた、うわっ言っちゃった、まずいよそのセリフ、でもどこで読んだものだかサッパリ思いだせん、いいや、あとでじっくり探すよ、それでいいのかな、バカ言うな今さらやめられるか、おらっ、いくぞっ、遅れんなっ、はいっ師匠、一生ついていくっス、ぱたぱた、また昼、また夜、そしてたぶん、さいごの朝。

ぱたぱた、ひょっとしたら、かたかたかたかた、そろそろ終わりかも、ぱたぱた、こいつらと一緒でいられるのも、かこかこかこ、僕はこいつらの旅をハタで見ていて、ただそれをぱたぱた、かたかたと、あっ今こっち見た、おーい、おーいっ、かたかた、かたかたっ、いや、聞こえるわけないか、でも、ぺちぺち、楽しかった、ぺたぺたぺた、終えたくない、ぱたぱた、思えばずっと一緒だったんだ、かこかこ、かたちある終わりを見るのは嫌だな、ぱたぱた、ああ、だからか、ぺこぺこ、こんなラストになっちゃったんだ、かたかた、こいつらの恩返しなのかな、かこかこ、ありがとう、ぱたぱた、でもそれ、おもしろいのか、ぱこぱこ、えっ、ぴたぴた、そんな無責任な、ぺちぺち、いや違うか、ぺたぺた、責任は僕がとらなきゃいけないんだ、ぽこぽこ、今はただ、ぱたぱた、本当に、ぱたぱた、ぱた、ぱたぺこかたかこ――、うん。

本当に、今はただ、ありがとう、ふわり。(エンターキー)

以上が、僕の人生における、ある日の、八十時間ぐらいの旅のようすです、ぺこぺこ、それは、とある、二〇〇五年四月における、夢のような日々でした。僕は忘れません、ありがとう、かこっ。


そして旅を続けていきたいなと、ぱたぱた ■